突然胸を締め付けるような痛みを感じたら

 ある日突然、胸を締め付けるような痛みや、刺すような違和感に襲われたらどうしますか。「少し休めば治るだろう」と思いたくなる気持ちはよく分かります。「少し痛いけど、そのうち治るだろう」この考え、実はとても危険なのです。

 実体験に基づいた言葉は、同じ不安や症状を抱えている人にとってとても大きな支えになります。特に狭心症のように、「様子を見ていいのか、それとも受診すべきか」で迷いやすい症状は、実際に経験した人の具体的な流れや判断がとても参考になります。

 結論からお伝えします。胸の痛みや血圧の変化を感じたときに最も重要なのは、「自己判断で軽視せず、早期に医療機関を受診すること」、そして「薬だけに頼らず生活習慣の改善を継続すること」です。

 狭心症は軽症でも放置すれば心筋梗塞へ進行する可能性があり、一方で血圧の数値だけに過剰反応するのも適切とは言えません。つまり、正しく怖がり、正しく対処することが、あなたの命を守る最短ルートなのです。

1.突然の胸の痛み—「いつもと違う」は危険信号

 ① 心臓の痛み

 2014年3月26日午前7時20分頃、パソコンに向かっていると心臓付近に強い刺すような痛さと共に、息ができないような圧迫感を感じました。胸がしめつけられるような感じがするので、身体を前方へ折り曲げるようにして痛みに堪えていました。

 胸から上腹部にかけて痛みが広がり、奥歯が浮くようなイガラッポさを感じます。20年ほど前から狭心症の発作のような軽い症状を経験していました。左胸が締め付けられるような感じと共に、圧迫感を伴う痛さは初めての経験で、これまでとはちょっと違うと感じました。

 2008年から2013年までに4回受けた人間ドックで、食道にバリウムの逆流を指摘されました。若いころは時々強い胸やけがあり、胃酸が口まで上がってくることもありました。人間ドックの医師は、逆流性食道炎の診察を受けるよう勧めていました。

 飲酒量が10分の1以下に減った定年退職後は胸やけが消え、さつまいもも食べられるようになりました。内科で逆流性食道炎の診察を受けていませんが、自覚症状が消えていることと尿酸排出で水分摂取を心掛けているので問題はないと考えました。

 来月は71歳になるので、年齢的に老化による動脈硬化や悪玉コレステロールによる動脈のつまりが気になります。逆流性食道炎の症状は狭心症と似通っているので紛らわしく、循環器内科での検査を優先すべきと考えました。

 2014年3月26日の痛みは狭心症や心筋梗塞などの心臓疾患が疑える「放散痛」と自己診断し、健康保険証と診察券をもって近くの大きな病院へ行きました。循環器科の診察は午後と言われ、受付だけでもしてもらおうと問診票に症状を詳しく書きました。

 受け取った看護師は問診票を読み、「ちょっとお待ちください」と看護師詰め所へ入っていきます。待合室で知り合いと話をしていると看護師に呼ばれ、「午後の診察では遅すぎるので、すぐ専門医の診察を受けるよう医師の指示がありました」と云います。

 素人なので専門医がわからず「病院が推薦する近くの専門医を紹介してください」とお願いしました。看護師は受付のカウンターにあった地図にしるしをつけて、「タクシー利用ですぐ診察を受けてください」と急がせます。

 ② 循環器内科医の診断

 病院前に止まっているタクシーに乗ると、5分ほどのところに循環器内科医院があります。問診票に経験した症状を書いて提出すると、10分ほどで診察が始まり血圧は240まで上がっています。心電図は正常で冠動脈の硬化度は70代後半、動脈の詰まり具合は正常範囲内です。

 心臓のエコー検査で、肺動脈弁から血液が右心室へわずかに逆流しています。医師は「血液が若干逆流する現象は誰でもあり、年齢相応の老化現象ですから問題ありません。心臓肥大もなく心臓は年齢よりも丈夫です。狭心症の軽い初期症状ですね」という診断がありました。

 平均119程度だった血圧が240になっていましたが、この程度の血圧で血管は破れませんよと医療バラエティ番組の見過ぎで起きた妄想を笑われました。血管拡張薬を二週間分と頓服薬のニトペン舌下錠と処方せんを受領し、調剤薬局で通称「ニトロ」をもらいました。

2.父から学んだこと

 狭心症の発作を2回経験していた父は食道がんが原因で他界しました。主治医から「今後の治療に役立てるため解剖をご許可いただきたい」と申し出があり、同じ病の人を救う参考になるならと家族の意志がまとまりました。

 医師の説明でよくわからなかった放射線治療の結果や、食道穿孔による肺転移を確認するため父の解剖に立ち会わせてもらいました。解剖室へ入ると解剖台の前に40~50人ほど看護学校の学生が並び、学生の後ろから覗き込むと肋骨が外されて内臓が見える状態でした。

 教授は「この患者は心筋梗塞をやっているね」と質問し、主治医が「はい4年程前です」と答えました。看護学生は1人、また1人と胸を押さえて出ていきます。外された心臓を手にした教授は、概略を説明して「よくもったもんだなぁ」と感心しています。

 看護学生たちは身体が硬直して質問できない状態なので、教授に許可を求めてから「心筋梗塞を起こすとどうなるんですか」と質問しました。教授は「見てごらん」と心臓に軽く指を触れました。心臓の壁が破れて指が心臓内へ入りました。心臓の壁が幕になっていたのです。

 原因を質問すると、「血液が供給されなかった心臓の壁は壊死し、筋肉は失われて瘢痕組織と呼ばれる薄い膜のようになってしまう。心筋梗塞を起こすと心臓内に血の塊ができて血管内を高速で流れ、大動脈を傷つける」と説明して、大動脈を切り開くと血管の内壁にくさび型の傷跡が無数についていました。

 その血栓が大動脈を流れて腎臓にぶつかり、当たった部分は壊れて死んでしまいます。そら豆のような形をした腎臓も表面が無数にへこんで血の塊も見えます。食道がんにならなくても、父の心臓と血管、そして腎臓は耐える限界まできていたことになります。

3.狭心症の発作時

 私は20年ほど前から年に1回程度、胸に痛みを感じることがありました。刺すような痛みや締め付け感はあったものの、短時間で治まるため深刻には考えていません。しかし、2014年3月26日に、その認識は一変しました。朝、パソコンに向かっていると発作が一気に襲ってきたのです。

・ 突然胸を刺すような強い痛み
・ 息ができないほどの圧迫感
・ 胸から胃にかけて広がる違和感
・ 奥歯が浮くような不快感

 明らかに「今までと違う」この直感が非常に重要です。71歳を前に初めて強い発作に見舞われたのです。身体を折り曲げて耐えるしかない状態で、さらに痛みは胸から胃のあたりへ広がり、奥歯に違和感まで出てきました。いわゆる「放散痛」です。

4.狭心症と心筋梗塞の違いを正しく理解する

 心臓の病気は似たように見えて、実は大きく異なります。狭心症は、心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が一時的に狭くなり、血流が不足する状態です。心筋梗塞は、冠動脈が完全に詰まって血流が止まり、心筋が壊死する状態です。

 主な違いは、狭心症は数分で治まることが多く、心筋梗塞は15分以上続く強い痛みがあることです。重要なのは、狭心症は心筋梗塞「前段階」である可能性があるという点です。つまり、「軽い症状=安心」ではなく、むしろ早期警告と考えるべきです。

5.「検査で異常なし」の落とし穴

 診察の結果、私の心電図は正常で、心臓にも大きな異常は見つかりませんでした。医師の診断は「軽い狭心症」。ここで安心してしまう人は多いのですが、実はこれは半分正解で半分危険なのです。

 なぜなら、

 ・ 心電図は発作時でないと異常が出にくい
 ・ 軽度の動脈狭窄は見逃されることがある
 ・ 血栓による一時的な詰まりは検査に映らない

 つまり、「異常なし=完全に安全」ではないのです。医療は万能ではありませんし、医師も天才的な名医ではありません。だからこそ、自分の体の変化を軽視しない姿勢が重要になります。

6.血圧の上昇に振り回されない

 発作後、私の血圧は急上昇しました。それまで「理想的」と言われていた数値が240台に。正直なところ「血管が破れるのでは…?」と不安になりました。テレビの医療番組の影響も侮れません。しかし冷静に考えると、血圧は非常に変動しやすいものです。

 血圧が上がる要因

 ・ 痛みやストレス
 ・ 緊張(いわゆる白衣高血圧)
 ・ 睡眠不足
 ・ 気温や気圧の変化

 つまり、一時的な数値だけで判断するのは危険なのです。さらに言えば、日本の健康診断では年齢や個人差をあまり考慮しない基準が使われていることもあります。少し皮肉を込めて言えば、「20歳と80歳が同じ基準って、本当に合理的なの?」という話です。

7.薬の役割と限界を理解する

 狭心症の治療では、管拡張薬やニトログリセリン(ニトロ)が使われます。ニトロの使い方(重要)は、舌の下で溶かす(飲み込まない)⇒1〜2分で効果 ⇒効かなければ追加(最大3回)⇒それでもダメなら救急車を要請します。

 勘違いをしてはいけません。薬は症状を抑えるものであって、原因を消すものではありません。ここを勘違いすると、「薬を飲んでいるから大丈夫」という思考になりがちです。では、根本的に何を変えるべきでしょう。答えはシンプルです。

8.本質は生活習慣にある

改善すべきポイント

  • 食事:塩分・脂質を控え、野菜中心
  • 運動:1日20分以上、または週3回の有酸素運動
  • 睡眠:規則正しく十分に
  • ストレス管理
  • 口腔ケア(歯周病対策)

 特に歯周病は意外な盲点です。細菌が血管に影響し、動脈硬化を進める可能性があります。つまり、歯医者に行くことも心臓を守る行動の一つです。ちょっと滑稽ですが、医学的には真面目な話です。

 また、健康診断は重要ですが、過信は禁物です。一部の検査項目については、病気の予防や死亡率低下との明確な関連が乏しいと指摘されています。数値だけで一喜一憂しない、自分の体調変化を重視する、必要なときに医療を活用するというバランスが大切です。

9.正しく怖がることが最大の防御

 最後にもう一度、結論を強調します。胸の痛みや血圧の変化を感じたら、自己判断せず早期に受診すること。そして、薬に頼りきらず生活習慣を見直すこと。これが最も重要です。狭心症は軽く見てはいけない病気です。血圧は数値だけで判断してはいけない指標です。

 心臓は一言も文句も言わず、一日10万回働き続けている超優秀な働き者です。だからこそ、こう伝えたいのです。「異変に気づいたあなたが、最初の名医になる」この意識こそが、未来の大きなリスクを防ぐ最大の武器になります。71歳以後現在まで、私はすべての発作を経験していません。

 あなたが次に読む記事は「ピリピリする痛みを感じたら皮膚科へ」です。